greeting 2026年度
広島魚市場株式会社の
経営方針について
代表取締役社長 佐々木 猛
1. 今年の世界経済と日本経済の見通し
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵略は既に4年を超え、今年2月28日にはイスラエルと米国がイランに戦争を仕掛け現在に至っています。イランとの戦争も既に一か月を超え、長期化の様相を呈しつつあります。その間石油価格の高騰に加え、石油の調達難により景気を冷え込ませる、スタグフレーションへの懸念が強まっています。
イランでの戦争により、エネルギー価格の高騰だけでなく、迂回ルートの利用や海上保険料の高騰により、グローバルなサプライチェーン全体に物流コストの増加がのしかかります。原油高は、輸送費だけでなく、あらゆる工業製品の原材料コストを押し上げます。せっかく鎮静化の兆しを見せていた各国のインフレ率が再び急伸し、企業収益を圧迫すると同時に、消費者の購買力を大きく削ぐことになります。
ガソリン代や電気・ガス代といった直接的なエネルギー価格の高騰だけでなく、それを転嫁した食品や日用品のさらなる値上げが家計を直撃します。その結果、日本の貿易赤字は大幅に拡大、結果として「原油高×円安」のダブルパンチとなり、輸入物価が跳ね上がる(悪い円安)が加速するリスクがあります。コストを価格に転嫁できる一部の大企業を除き、多くの中小企業は賃上げもままならない中で、国内の個人消費はさらに冷え込む可能性が高いです。
2. 今期の経営方針:戦略的な賃上げと事業構造の変革
<先行投資としての賃上げ>
当社は過去3期連続で定期昇給に加え、一律5千~6千円のベースアップを実施してきました。一方で昨年10月から月次試算表の営業利益が前年を下回るようになり、会社の経営にとっては厳しい状況が続いています。しかし、このような環境下でだからこそ、現場を支える若手や子育て世代の社員に配慮した賃上げを、役員会において決定しました。これは、生活を守るための物価高対策であると同時に、社員のモチベーションの向上を目的とした先行投資です。
<卸から「製造卸」への進化>
卸売市場内の取引は年々右肩下がりとなっており、当社の収益力を強化するためには、「右から左へモノを流すだけの卸売」では、賃上げ原資となる収益を確保することは困難になります。産直取引の増加や消費者の魚離れに対応するため、OEM生産も含め、自ら企画し加工・製品化機能を強化することで、「高付加価値型」事業構造へと転換を図ります。
3. 単なる卸から製造卸への進化を目指して
当社加工部及び子会社であるフレッシュヒロウオの2工場は、取引先のアウトソーシングニーズを取り込み、収支バランスの改善を常に注視し、何とか経営を継続できているという現状です。両部門において蓄積された、より高品質な商品加工のためのノウハウをベースに、川上の取引先である各産地や原料情報などと、業務筋やスーパーの需要動向の情報を繋ぎ、サプライチェーンの中核としてより高付加価値な商品開発機能が求められています。
どの時期に、どの産地の、どの魚が安くて美味いかを熟知している、「目利き」と「調達力」の活用こそが当社の最大の武器です。原料の相場変動を読み、最適なタイミングで仕入れて加工に回すことで、原価率をコントロールできます。そのためには鮮魚部、養魚部、特殊部、マグロ部等の当社の現場部門と加工部門との連携が非常に重要です。それらのより高度かつ高密度な連携により、当社ならではの商品開発が可能になると思います。
4. 商品の高付加価値を生むための「3つのアプローチ」
単に「魚を切ってパックに詰める」だけでは高付加価値とは言えません。顧客の「課題解決」に直結する商品開発が必要となり、これらを中長期的な視点から進めて行きます。
① B to B(飲食店・施設向け)の「省力化」支援
人手不足に悩む飲食店等の業務筋や業務卸向けに、ポーションカット(定量カット)済み、あるいは下味・加熱済みの「そのまま出せる・調理できる」商材(時短・歩留まり100%の商材)を提供します。
② B to C(一般消費者向け)の「簡便性」と「特別感」
共働き世帯向けの「レンジで温めるだけの本格シーフード料理」や、家庭では作りにくい「プロの味の魚惣菜(マリネ、カルパッチョの素など)」の市販用商品についても、外注加工も含め中長期の視点から商品開発を進めていきます。
③ 最新の冷凍技術の導入
フレッシュヒロウオの3D凍結機や加工部のリキッド凍結機を活用することで、獲れたての鮮度や食感を維持したまま長期保存が可能になります。これにより、旬の時期に大量に仕込んで加工し、需要が高まる時期に適正価格での販売が可能になり、当社独自の調達力と言う強みを生かすことができると考えます。
5. 牡蠣養殖事業の本格展開と海外販路の拡大
<江田島・深江湾での牡蠣養殖>
江田島深江湾におけるシングルシードの牡蠣養殖も、スタートから丸3年を迎えようとしております。地元のイワシ網と定置網の漁業者である(有)深水さんにお願いし、当社の事業として進めて来ました。牡蠣養殖は初めての経験であり、当初は仕入れた三倍体牡蠣の稚貝の大量へい死や、成長時期に合わせた稚貝の仕入れが出来ず、苦労の連続でした。
一方で水産庁OBの小松正之先生に紹介していただいた、広島県栽培漁業センターOBの平田先生のご指導により、牡蠣養殖は未経験であった深水単独で取り組んだ場合と比較し、短い期間に適正な牡蠣養殖に係る知見を習得できたように思います。新年度においては、今のところ三倍体と二倍体を併せ、本年度中に生食用殻付き成貝20万個出荷を目標に頑張っています。
併せて県や漁協と一体となり、隣接海域にある“干潟での延縄養殖”という、広島県の西の海域では初となる養殖方法の認可に向けて(現在行っているバスケット養殖も当社が初)、広島県等の関係者と協議を続けています。
<“地域商社”としてのグローバル展開>
前期の最終3月に、台湾ナンバーワンの外食チェーンである王品集団との、冷凍牡蠣と冷凍ブリフィーレを中心とする“包括売買契約締結セレモニー”が同社台中本社にて開催され、広島県漁連と東町漁協の関係者も同席される中で、出席しました。当社として、商社を介さない海外のお客様との直接取引の先であり、今後もさらなる販路の拡大に注力します。
広島県産の冷凍牡蠣は、生食、加熱用を問わず、旨味の強さの点で海外マーケットでも競争力のある商品であると考えています。加えて今回、漁協としてのブリ養殖において国内最大規模の生産量を誇る、鹿児島・東町漁協の“鰤王”が当社の戦力にラインアップされました。海外の現地ユーザーに対しても、“生産者の顔が見える商売をモットー”に販路拡大にチャレンジします。
円安や国の支援等、輸出に対しては追い風が吹いており、10年の歳月をかけて取り組んできた輸出事業を強化し、地方の市場水産卸から脱皮した“地域商社”として、新たなマーケット開拓のお手伝いができる企業を目指してまいります。
6. 新市場建設計画における2つの新事業
<水産部門の新冷凍冷蔵庫の建設>
なかなか建設計画が進捗していなかった、新市場の建設計画ですが、前期3月末の段階で新たな展開が見えてきており、急速に進み始める可能性も出てきています。建て替え計画の中で、水産部門において最初に着手される事業は、新冷凍冷蔵庫の建設であります。
新冷凍冷蔵庫の建設は、広島水産様と弊社が事業の中心となり、今までのところ仕切役として広島銀行様に仲介をお願いし、中核メンバーとして元食品会社系物流企業の社長経験者がご参加いただく構想により、進めているところです。
建築コストの大幅上昇と言う、厳しい経営環境の変化にさらされながら、広島市をはじめ関係する各行政当局にご理解とご協力をいただくことで、何としても当初の計画年度での竣工に向けて、全棟の完成にこぎつけたいと考えています。
<賑い施設の今後の動向>
人口減少、中でも広島県は日本一の流出人口という現実に直面しながら、中山間地域まで含めた食料供給のインフラ維持のため中央市場機能の維持・強化が必要ではないか。そして生鮮食品を核とする魅力的な、今まで広島にはなかった非日常の“賑わい施設”の創出により、観光・インバウンドを含めた地域経済活性化のために、果たすことのできる役割は大きいと考えております。
去る3月14日土曜日に開催された“市場祭り”は、昨年同様わずか4時間足らずの開催時間にも係わらず1万人以上の市民に来場いただき、水産物だけでなく青果、花きと言う生鮮食品等の魅力を存分に発揮できました。賑わい施設はこの延長線上にあるもので、仮称“オイスターパーク”という名称を考えていますが、広島の魅力を海外インバウンドを含めた来場者に存分に体感いただける施設になることを期待しています。
