代表メッセージ
国内の水産業界は漁獲量の減少、人口減少による需要減と人手不足、一方で国産・輸入を問わず相場の上昇、餌代の高騰など構造的な課題に直面しています。私たちはこれらの課題を『克服すべき壁』としてではなく、『次なる成長への好機』と捉えます。デジタル技術を活用して、伝統的かつアナログ主流である水産物流通の非効率を解消し、データという新たな資産を基に、これまでになかった価値を創造する。それこそが広島魚市場㈱が未来に向けて果たすべき責任であり、私たちのDXの目的です。
広島魚市場㈱のDX戦略
パーパス(存在意義)
広島魚市場㈱は瀬戸内海を中心とする漁業者と消費者をつなぎ、新鮮な海産物を安全・安定的に届けることで地域経済と食文化を支えてきました。
少子高齢化や物流の担い手不足といった社会課題が深刻化する今こそ、デジタル技術を活用し、伝統的な市場の知恵と最先端技術を融合させることで、地域と世界を結ぶ持続可能な魚市場の確立を目指します。
この考え方は、企業経営を投資と捉え、デジタルとデータを価値創造の源泉とする「デジタルガバナンスコード3.0」の理念に基づいています。
ビジョン(実現したい未来)
当社は「伝統の目利きとテクノロジーの融合で、広島の海の宝をもっと近く、もっと世界へ」というDXビジョンを掲げています。卸売業者から進化しAIやIoT、クラウドを活用したスマート・サプライチェーンにより、漁獲から市場取引、物流までをデータで見える化し、生産者と消費者をつなげ、国内外の多様な流通ニーズに応える水産プラットフォーマーとなることを目指します。
こうした取り組みを通じて、食の安全・安心と持続可能な漁業を両立させると同時に、広島の水産物のブランド価値向上と世界への販路拡大を図ります。
デジタル技術活用の方向性
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現場におけるデジタル人材育成
Web-EDIやスマートフォンアプリを使った取引、IoTによる個体管理、AIによる品質評価などを導入し、現場のスタッフがデジタルツールを使いこなせるよう教育を進めます。 -
管理部門におけるデータ活用
水揚げ量や価格、受発注、物流の状況をリアルタイムに分析できる統合データ基盤を整備し、需要予測や適正在庫管理、資源保全に役立てます。
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営業部門におけるマーケティング強化
オンライン市場や輸出商談のためにビッグデータやWebアクセス解析を活用し、新規顧客の開拓と付加価値商品の提案を行います。
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部門横断的な情報連携
各部門のデータを統合し、最適な人員配置や設備稼働を実現。物流・加工・販売が連携したサービスを提供します。
DX戦略と重点施策
デジタルガバナンスコードが示す三つの視点と五つの柱を踏まえ、広島魚市場は以下の3本柱でDX戦略を推進します。
- スマート取引プラットフォームの実現
- Web-EDIとスマホアプリによるリアルタイムな電子受発注により、取引の迅速化・効率化を図ります。
- IoTやAI画像認識を用いて、魚種や鮮度情報を瞬時に把握し、品質とトレーサビリティを保証します。
- 国内外のバイヤーがオンラインで参加できる越境取引機能を強化し、広島産水産物の販路を世界へ広げます。
- データ活用による業務プロセス改革
- 統合データ基盤を構築し、水揚げ量・価格・需要動向・気象情報などを収集・分析。 仕入れ計画や配荷、出荷タイミングを最適化します。
- AIを活用した需要予測モデルにより、廃棄ロスを削減し、適切な価格設定や提案を可能にします。
- 輸送・保管の温度管理や物流状況をIoTセンサーで可視化し、鮮度を保つとともに、コールドチェーン全体の効率化を図ります。
- 新しい価値の創造と市場拡大
- デジタルマーケティングにより、地域の食文化や魚食の魅力を発信し、観光や飲食店など新たな顧客層を開拓します。
- レシピ動画や産地直送サービスなどオンラインコンテンツを充実させ、ユーザーとの接点を拡大します。
- 持続可能な漁業や資源管理の情報を透明性高く発信し、ESG投資やサステナビリティに関心の高いパートナーとの連携を深めます。
主な取り組み・投資
デジタルガバナンスコードがDXを価値創造のための投資と位置付けている点を踏まえ、当社は年間予算を年初に設定し、DX関連投資に充てます。主な取り組みは以下の通りです。
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デジタル人材育成
業務別のeラーニングプログラムと資格取得支援を実施し、3年以内にデジタルスキル認定保持者を正社員の30%以上へ増やします。 -
ITインフラ整備
クラウドERP、統合データ基盤、AI品質評価システムの導入を進め、部署間でデータを共有できる環境を整えています。 -
業務アプリとツール
スマホアプリによる商品撮影と出品、電子ドキュメントワークフロー、プロジェクト管理ツールなどを導入し、紙の使用量を50%削減します。 -
マーケティングと顧客接点
ウェブ解析ツールやSNS広告の活用により、地域内外からの問い合わせ数を3年間で2倍にすることを目標とします。
DX推進体制と人材育成
DX推進は経営トップのコミットメントのもとで進められます。取締役会の決議を経てCDO(最高デジタル責任者)を設置し、各部門から選出されたDXリーダーによる推進委員会を設置しています。
人材育成については、研修計画に基づきITベンダーや大学と連携した講座を実施し、業務知識とデジタルスキルの両面を育てます。
指標と目標
DXの進捗を定量的に評価するため、以下の指標を設定し、3年後の達成目標を公開します。
指標 | 現状 | 3年後目標 |
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電子取引比率 | 30% | 60% |
取引リードタイム | 平均3日 | 平均2日(30%短縮) |
越境取引額 | 年間1億円以下 | 年間2億円 |
DX研修受講者数 | 10名 | 40名 |
パートナーからの満足度 | 70% | 80% |
これらの指標は、業務効率や顧客満足、社員のデジタルスキル向上といった多面的な成果を測るものです。数値目標を設定し公開することで、DXの進捗が定量的に管理できるようになります。
ガバナンスとセキュリティ
デジタルガバンスコードでは、企業は「リスクと機会への対応」「公平性・透明性の確保」「関係者との協働」を重視すべきだと示されています。当社も情報セキュリティ基本方針を定め、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」に沿った体制を構築しています。
年1回のセキュリティ監査や脆弱性診断を実施し、社内研修の実施などを行い、個人情報や機密情報を適切に保護するとともに、災害やシステム障害に備えたBCP(事業継続計画)を整備しています。
ステークホルダーへのメッセージ
広島魚市場㈱は、DXを通じて水産物流の課題をチャンスに変え、より良い価値を社会に提供することを目指しています。デジタルは目的ではなく、漁業者や取引先、消費者、地域社会の皆さまと共に成長するための手段です。
今後も進捗状況や新たな取り組みを積極的に公開し、皆さまと対話を重ねながら、持続可能で魅力的な食の未来を築いてまいります。